以前のブログで、ストレスが体に害を及ぼす、ということを書いたのですが、実は、ストレスには良い面もある、それどころか、ストレスがあった方が良い場合もある、というお話です。

「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」という本を読んで、私のストレスに対する考え方が大きく変わりましたので、ご紹介致します。

1998年にアメリカで行われた実験で、
①ストレスを感じていますか?
②ストレスは健康に悪いと思いますか?
という質問をして、追跡調査を行った結果、強いストレスを受けていた人のうち、「ストレスは健康に悪い」と思っていた人の死亡リスクが最も高く、強いストレスを受けていた人のうち、ストレスは健康に悪いと思っていなかった人には、死亡リスクの上昇は見られませんでした。それどころか、ストレスを感じていない人たちよりも死亡リスクが低い、という結果が出ました。つまり、「人はストレスだけでは死なない」、ストレスを受け、さらに「ストレスは健康に悪い」と考えていると、死亡リスクが高まる、という結論でした。

ほとんどの人は、ストレスは害になると考え、最小限に抑えるべきだと思っていますが、実際には悪いことばかりではなく、それどころか、困難な状況にぶつかったときに、最大の味方になることもあります。ストレス反応には種類があり、心血管変化や、ホルモン分泌の割合など、ストレス反応によって体に起こる変化は、場合によって異なります。

ストレス反応のうち、最も有名な「闘争・逃走反応」は、身の危険を感じたとき、アドレナリンが分泌され、交感神経活性が高まり、心拍数が上がり、呼吸が速くなり、筋肉が緊張して、瞬時に行動を起こせるようになります。一方、消化機能など、緊急時には重要ではない身体機能は、低下するかいったん停止します。
闘争・逃走反応は、火事から逃げ出すとか、溺れている子を助けるなどの場合は役に立ちますが、それ以外は役に立たないどころか、かえって問題にうまく対処できなくなってしまいます。

しかし、ストレス時に体に起こる反応は、闘うか逃げるかだけではありません。
ストレスはあっても、それほど危険ではない場合には、脳と体は「チャレンジ反応」という別の状態に切り替わります。
「闘争・逃走反応」とは、ストレスホルモンの分泌される割合が異なります。DHEAというホルモンの割合が高くなり、集中力は高まりますが、恐怖は感じません。
アスリートや外科医などが、競技や仕事に取り組んでいる時には、ストレス反応の中でも「チャレンジ反応」が表れ、プレッシャーのかかる場面でも、自信が強まり、集中力が高まり、最高のパフォーマンスを発揮することができます。
「チャレンジ反応」が起こると、自信が強まり、進んで行動を起こし、経験から学ぼうとするのです。

また、ストレスを感じると、人とのつながりを求める気持ちが強くなる場合があります。それは主にオキシトシンというホルモンの働きによるものです。
オキシトシンが大量に分泌されると、誰かと触れ合ったり、メールを交わしたり、一緒に飲みに行ったりするなど、人とのつながりを求める気持ちが強くなります。
また、思いやりを深め、直観を鋭くする効果があり、人への信頼が深まり、相手の役に立ちたいという思いが強まります。
オキシトシンは、勇気をもたらす脳内化学物質でもあります。脳の恐怖反応を鈍らせ、体が動かなくなったり、逃げ出そうとするのを防ぎます。誰かを抱きしめたい気持ちにさせるだけでなく、勇敢にしてくれるのです。これを「思いやり・絆反応」と呼んでいます。

生き残りを主な目的とする「闘争・逃走反応」とは違って、「思いやり・絆反応」は、自分にとって大切な人たちやコミュニティを守りたいという気持ちを高めます。そして重要なのは、そのための勇気が湧いてくることです。
さらにオキシトシンには、心臓細胞の再生や、微小血管損傷の修復に役立ち、心臓の強化に役立ちます。一般的には「ストレスは心臓発作を引き起こす」と言われていますが、これは、ストレスによってアドレナリンが急増した場合で、オキシトシンが増えた場合には、反対に心臓を強化することができます。

驚くべきことに、いつどんな時に、どのストレス反応が起こるかは、自分が望むように変えることができます。
体がストレスに反応しているのを感じたら、「今自分に最も必要なのは、ストレス反応のどの効果だろう?」と考えてみてください。闘うべきか、逃げるべきか、状況にしっかりと向き合い、行動を起こすべきか、周りの人とのつながりを強めるべきか。
もしストレス反応が起こって、流されてしまいそうになっても、「自分はどのように反応したいか」に意識を集中させると、それにしたがって、体の状態も切り替わります。

このようにストレス反応は、基本的なサバイバル本能だけではありません。ストレス反応は、私たちが人間らしくふるまい、人とつながり、周囲や世の中と関わっていくための助けにもなるのです。それを理解したとき、ストレス反応は恐ろしいものではなくなります。ストレス反応は、その価値を正しく理解して、うまく利用し、頼りにすべきものなのです。

ストレスと意義とは密接な関係にあり、どうでもいいことに関しては、ストレスは感じませんし、有意義な人生を送りたいと思ったら、ある程度のストレスは付きものです。

人間の体には、元々ストレスに対処する力が備わっている、ということを理解し、必要以上にストレスを恐れたり、避けたりしなくていい、ということです。